県民読書の日(11月1日)に合わせて秋田県が主催したトークライブが2024年11月3日、お笑いコンビ・ハリセンボンの箕輪はるかさんと秋田県出身でフリーアナウンサーの堀井美香さんを迎え、秋田市の秋田キャッスルホテルで開かれた。女性週刊誌で毎月書評を担当している箕輪さんは、自身の本との出会いについて、堀井さんは箕輪さんがオススメしている本を読んで感じたことなどについて、楽しい読書トークを繰り広げた。
対談者プロフィール
箕輪はるか(みのわ・はるか)
早稲田大学卒。大学卒業後NSC東京校に入学し、お笑いの道を目指す。2003年に相方近藤春菜と「ハリセンボン」を結成。2004年にデビュー。光文社『女性自身』では毎月書評を連載中で、図書館司書の資格を持つなど、読書が好き。
堀井 美香(ほりい・みか)
秋田県出身の元TBSアナウンサー。現在はフリーアナウンサーとして活躍中。毎回満員になる「朗読会」「読み聞かせ」を多く行う「yomibasho PROJECT(よみばしょプロジェクト)」に取り組んでいる。
堀井美香(以下、堀井) 本日は、早稲田大学を卒業され、図書館司書の資格もお持ちの箕輪はるかさんをゲストにお招きしています。箕輪さん、どうぞ!
箕輪はるか(以下、箕輪) こんにちは〜! よろしくお願いします。
堀井 秋田にいらっしゃったことはありますか?
箕輪 はい、何度か来ています。子供の頃は、あきたこまちを食べて育ちました(笑)。
堀井 図書館司書の資格もお持ちとのことで、本に関わる仕事に就こうと思ったことはなかったんですか?
箕輪 大学時代は図書館で働けたらいいなと思っていました。図書館の空間が好きで、よく図書館にいました。私、大学4年間友達が一人もできなかったんですよ。地下にある電動書架って分かりますか? あれのスイッチを押してじっと動きを見て過ごしていました(笑)。でも、そんな人生じゃだめかなと思って、お笑いの道にチャレンジすることに。
堀井 だいぶ思い切りましたね。いきなりNSCへ行かれたんですか?
箕輪 友達がいない4年間、というのが原動力になったのかもしれませんね。
堀井 読書ヒストリーを伺っていきたいと思います。どんなお子さんで、どんな本を読んでいましたか?
箕輪 小学校の頃は今と違って自分から友達を遊びに誘うタイプで、友達を巻き込むほうでした。学生になってから周りの目を気にするようになって、自分から声を掛けたら嫌がるかなと思って、消極的な人間になっていきました。当時はあまり本も読んでいませんでしたね。読むようになったのは、高校生の頃からです。
堀井 一般の皆さんからのご質問も織り交ぜながらお聞きしたいと思います。小学生の方からの質問です。「箕輪さん、堀井さんは、小学校の頃に読んで記憶に残っている本は何ですか?」ということですが、いかがでしょうか。
箕輪 本は読んでいなくて記憶にあまりないのですが、絵本の延長のようなお話は記憶にありますね。『ばばばあちゃん』シリーズ(さとうわきこ作)が好きで、特にばばばあちゃんが外でコーヒーを飲むお話が好きです。家中の物を外に出していっちゃうお話。
堀井 私も大好きです! 星空見ていたらコーヒー飲みたくなって……っていう内容ですね。
箕輪 堀井さんはどうでしたか?
堀井 やなせたかしさんの絵本『やさしいライオン』ですね。今と違って私、その頃正義感が強かったみたいで、やさしいライオンを撃とうとする兵隊さんたちを黒く塗りつぶしていました。その本、今も残っています。小さい頃に読んだ本は、影響しますよね。
箕輪 影響受けると思いますね。
堀井 中学生、高校生の頃はいかがでしたか?
箕輪 音楽が好きで、小沢健二さんのファンだったんです。同級生にも同じように小沢健二が好きな友達がいて、ちょっとライバル関係みたいな(笑)。彼女はマニアックなことを言ってくるんですよ。私がシングルいいよね、と言うと「アルバムの最後の曲がいいよね」って玄人っぽいことを言ってくる。ある日レコードを買ってきたのを見て、彼女よりディープなことをしなきゃ、と。小沢健二特集みたいな雑誌を買ったときに、小沢健二が好きな本が紹介されていました。フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だったんですが、読んでみたら面白かった。SF長編小説は初めて読みました。もちろん、フィリップ・K・ディックも初めて。最後まで読めたことがうれしかったですね。結局、自慢してやろうと思ったら、彼女が「プレーヤーなくて聞けないからあげる」ってレコードを持ってきたんですよ。プレーヤーないのに買ったんかい! って思いました(笑)。
堀井 好きな人が好きな本を読むのって良いですよね。学生時代はどうですか? 読書にどっぷり、というわけではなかった?
箕輪 そうですね、そこまで当時は読書にハマっていたわけじゃなかったと思います。
堀井 大学時代を経て、お笑いの道へと進むことになったということですが、「お笑いの仕事と読書家というイメージが直接結び付かないのですが、自身のお笑いの道に影響を与えた本などはありますか。」というご質問が来ています。
箕輪 お笑いに行くきっかけになったような本、というものはこれと言ってないのですが、ギャグ漫画のような本で『バカドリル』(天久聖一、タナカカツキ作)という本がありまして。ただただ笑えるんです。それを結構好んで読んでいて、こういうのを作ったら面白そうだなぁとか、お笑いの方向に向かったというのはあるかもしれません。
堀井 今は『女性自身』で書評を担当されていますが、最近読んだオススメの一冊を教えてもらえますか?
箕輪 ケヴィン・ウィルソンの『地球の中心までトンネルを掘る』という短編集です。血縁関係のないファミリーの「おばあちゃん」として「代理祖母」という仕事をしているおばあちゃんのお話で。「孫」たちに「おばあちゃん」との思い出を作るために働く、というお話でした。そのおばあちゃんが代理祖母という仕事に生きがいを感じていたりするんです。そこが面白いと思いました。
堀井 最近はおばあちゃんとの思い出がない人も多いですからね。SF作品がお好きだと思いますが、この作品もSFっぽい要素はありますか?
箕輪 そうですね。SFとは言わないまでも、現実とちょっと違っているような世界観だったり。
堀井 その他にもフランスの小説で『ぼくのともだち』(エマニュエル・ボーヴ作)という小説もオススメされていましたね。100年くらい前に書かれた小説ですね。
箕輪 そうです。友達を作ろうと街に行く主人公なんですが、性格が悪すぎてことごとく失敗する、というストーリー(笑)。すごく寂しい人なんですけど、友達を作りたいという気持ちとか、人に対して優位に立ちたいっていう、あまり周りに知られたくないような嫌らしい部分というか。普段なら人には隠すんですが、小説はその人の目線で書かれるのでむき出しになりますよね。自分にもそういう部分あるな、っていう。人に見せたくないけど、これが人間だよなと感じます。
堀井 私も箕輪さんがオススメしていたので読んでみました。あれこれやってみるけど、やっぱり友だちができない。
箕輪 そうです! 例えば、仲良くなれそうだと思った人にお酒をおごってあげるんですが、ありがとうって言わないことに無茶苦茶腹を立てるんですよね。
堀井 その他に『日々のきのこ』(高原英理作)という本もオススメされていましたね。
箕輪 森が舞台のお話で、キノコがたくさん出てきます。だんだんとキノコになりたい、キノコの魅力に取り込まれてしまうというお話です。キノコ菌によってキノコ化する人間が出てきたり。家の中でキノコになって。小屋にいるんですが、キノコになって黙っているので、住んでいるというより、生えている感じだよな、とか。キノコの音の描写があったりして、それが面白い。
堀井 なんとなく、キノコって宇宙生物的な感じがしますよね。ちなみに、秋田県民はキノコ採りが大好きなんですよ。皆さんの中で、キノコの音を聞いたことある方、いらっしゃいますか? ……あ、いらっしゃる!(笑)
箕輪 そのキノコの生えてくる音、音読したくなっちゃう本なんですよ。キノコ自体に意思があるわけじゃないのに、人間を魅了してしまうというか。
堀井 不思議なお話ですね。箕輪さんはどうやって本を選びますか?
箕輪 本屋さんに行ってとにかく変な本を探しますね。あとは「ブックメーター」というウェブサイトで、自分が好きな本をいいねと言っている人のオススメを見て選んだりします。どうしても偏ってしまうので、人からプレゼントしてもらった本とかは、良い発見があってうれしかったりしますね。
堀井 プレゼントされて良かった本は?
箕輪 清水ミチコさんにもらった『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン作)という本ですね。大体の人は効率化して生活して、自分が大事にしていることをいつかやろうって考えがちですよね。でもそれは違う、という内容でした。時間を作らないと「いつかできる」ということはない、と。確かにな、って感じました。
堀井 その本を読んで、何か行動が変わったりしましたか?
箕輪 それこそ、いつか読もうって置きっぱなしにしてしまう本がいっぱいだったんです。でも「いつかは来ないぞ」って。読みたいと思うなら、本当に時間を確保してやりたいことのために時間を使おうと。
堀井 いわゆる「積読(つんどく)」ですよね。それに関する質問も来ています。「本をなかなか最後まで読めません。途中でやめてしまい、積みっぱなしにしてしまいます。どうしたら最後まで読めますか?」という質問です。
箕輪 本当に読みたいなら、時間を作るしかない。それ以外のことを捨てるしかない! SNSとか見ちゃうじゃないですか、つい。そういう魅力的な時間を捨てる。
堀井 必ずこの時間に読む、というようなことを決めるんですか?
箕輪 私は朝イチに時間を取る、という方法が良いなと思いました。
堀井 秋田の学校では朝読書の時間を10分取るところもあるんだそうです。それも良い取り組みですよね。
箕輪 10分っていう短い時間でも良いですね!
堀井 私は以前、ある作家さんのお宅にお邪魔したときにすごくいっぱい本が積み重なっているのを拝見しまして。「この本はお読みになったんですか?」とお聞きしたところ、全然読んでいないと。でも、積んでおくだけでもパワーを感じるから良いんだ、っておっしゃっていて。なるほどなぁ、と思っていました(笑)。私は携帯の中に読みたい本を入れておく派なので、つまみ読みしていますね。
箕輪 いつ、つまみ読みするんですか?
堀井 通勤時間とかが多いですね。あとは休憩時間など。もう一つ質問を読ませていただきますね。「高校で教師をしています。10代の若者にオススメの本を教えてください」とのことです。これは、私から先にお答えしますね。その間に箕輪さん、考えておいてください(笑)。文学作品のようにじわじわとしみる作品も良いのですが、若者には割と即効性のある本が良いのかなと思います。情報を得て成功していると感じられるものが良いのかなと思うので、意外かもしれないですが、堀江貴文さんと藤田晋さん、IT業界を牽引してきたお二人が共著で出している本をオススメします。タイトルは『心を鍛える』です。端的に一歩を踏み出すための後押しになる、リアルに書かれた本です。鉄は熱いうちに打て、他の人のために働け、孤独であれ……とか、そういったメッセージが込められています。箕輪さんはいかがですか?
箕輪 そうですね。言葉に興味を持っている若者だったら楽しめるのではと思うのが『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース作)という本です。単純に翻訳しようにも、その言葉自体が別の言語では存在しないことがあるという内容です。例えば、「イクトゥアルポク」というイヌイット語があるのですが、「誰か来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること」という言葉を表しています。当てはまる言葉そのものは日本語にはないけど、何となく理解できるなぁっていう。
堀井 分かりますね。例えば、日本語で「虚(うつ)ろ」という言葉は、英語では何て言うんだろうって思いますよね。
箕輪 興味を持てるということが一番良いことだと思います。本の魅力を人に勧めることは難しいなと思います。だから、ビブリオバトルは良いイベントですよね。見ていると読んでみたいなと思います。
堀井 そうですね。秋田では随分前からビブリオバトルが開催されているということで、すばらしいですよね。箕輪さんは、普段どんなシチュエーションで本を読むことが多いですか?
箕輪 家で読むのも、喫茶店とかで読むのも好きです。周りが適度にざわざわしているほうが。ただ、隣のテーブルの話が面白すぎて、読めないときもありますけど。この前は同僚の悪口をおばちゃん二人で話していて、「オキアミさんてさぁ」って、名前も独特だし。「いつも電池ばっかり交換してるよね」って。どんな職場だよ、って気になっちゃって(笑)。
堀井 それは気になりますね(笑)。私はざわざわしているところだと、集中力がなくて読めないんです。音楽聴きながらも難しい。図書館とか、何も他にないところで、というタイプです。いただいている質問で「普段読書の習慣がない人へのオススメの仕方を教えてほしい」とのことですが、読んだことがない本を、どうしたら読んでみる気になるのか。
箕輪 そんなに構えて読まなくても良いんじゃないかな。印象的な言葉が自分にすっと入ってくれば、それももう読書なんじゃないかと思います。さっきの朝の読書習慣とかも良いと思いますし、美容院で美容師さんが雑誌を選んで置いてくれますよね。あれ、読む時間も好きですね。10分弱くらいで、いつ強制終了されるかも分からない(笑)。自分ではない、他の誰かが選んでくれたもので、二度と読めないかもしれない。そんな条件下で読むのもきっかけの一つじゃないかと思います。
堀井 そろそろトークライブ終了のお時間も近づいて来ました。最後に、本の選び方のアドバイスをお願いします。
箕輪 読みたい本が見付からなかったら、友達に勧めてもらうのが良いと思います。読んだ感想を話し合うというのも良いかもしれません。友達がどう思っているのかとか、どう感じたのかとか、照らし合わせの作業で面白い発見があるかも。
堀井 自分で選んでも良いですし、人のオススメを読むのも面白いし、すてきですよね。今回箕輪さんがオススメしている本を読みましたが、初めて出会うジャンルや文体が新鮮でした。小沢健二さんのオススメの本から好きになった、というのもすてきだと思います。
箕輪 本屋さんにも行ってほしいですね。ちょっと立ち読みして、合いそうだったら買ってみるとか。私は、本屋さんに行くと新刊コーナーを見て、文庫本を見て、SFのハヤカワ文庫を見てから創元推理文庫を見て……30分くらい滞在しています。
堀井 箕輪さんにとって、読書とは?
箕輪 拡張する作業、ですかね。誰かが考えた言葉を読んで、自分の言葉になっていく。そういう面もあるし、それに刺激されて表現を工夫してみようと思うと、自分の言葉もそこから生まれるきっかけになる。作者と読者の会話をしながら、自分が育っていくようなライブ感を感じられます。手の上のライブ感、というか。まとまっていないですが、自分を拡張してくれるものという感じですね。