読書とは、情報を得ることではなく「誰かの世界を訪ねること」かもしれません。脚本家の北川悦吏子さんをゲストに迎えた「読書の杜トークライブ」で交わされた言葉から、今あらためて読書の意味を見つめ直します。
ゲスト/北川悦吏子(脚本家)
MC/堀井美香(フリーアナウンサー)
堀井美香(以下、堀井) 本を読む人が減っていると言われる今、北川さんは読書にどんな意味があると考えていますか。子どもの頃の読書体験についても教えてください。
北川悦吏子(以下、北川) 正直に言うと、子どもの頃は本があまり好きではありませんでした。「賢くなるために本を読みなさい」と言われる時代で、課せられるとどうしても嫌になってしまって。だから今は、子どもが前向きに、能動的に本を読みたくなるような関わり方を、大人が工夫できたらいいなと思っています。
堀井 声のかけ方ひとつで、印象は大きく変わりますよね。
北川 そうですね。今は本を読む人は減っているかもしれないけれど、言葉に触れる量は確実に増えていると思います。LINEやメール、SNSなど、私たちは日常的に文章を書き、読んでいますよね。
堀井 一日に書く文章量は、昔よりずっと多い気がします。
北川 本当にそう。だからこそ、本を読まないのはもったいない。みんなもう、言葉に対してとても敏感になっていると思うんです。
堀井 北川さんは中学生の頃、『アンネの日記』を愛読されていたそうですね。
北川 はい。とても好きで、それがきっかけで自分でも日記を書くようになりました。架空の人物「あみさま」に宛てて書く日記で、今思うと中二病みたいですけど(笑)。
堀井 最近、その日記を読み返されたと伺いました。
北川 親が亡くなって家を片付けていたときに出てきたんです。文章は拙いけれど、一生懸命に書いていて、すごく面白かった。優れた文章を読むのもいいけれど、自分が昔書いた文章にも、確かに何かがあると感じました。
堀井 過去の自分の言葉に、心を動かされることってありますよね。
北川 ありますね。私は恥ずかしがらずに、わりと平気で読み返しました。「ああ、こんなことを考えていたんだな」って。
堀井 北川さんは読書を「その人に会いに行く感覚」だと表現されていますよね。
北川 はい。本を書くという行為はとても個人的なものだと思っています。純文学の作家さんの作品は特に、その人自身が強く出ている。だから「どの作品が一番良かったか」というより、「この人はこういう世界を見ているんだな」と感じるために読んでいます。
堀井 映画やドラマとは違う距離感ですね。
北川 映画やドラマは、多くの人の手が入りますよね。でも本は、作者の内側に一番近い表現。ノックして、その人の部屋にそっとお邪魔するような感覚です。
堀井 現実ではなかなか出会えない人とも、読書なら向き合える。
北川 そう。ちょっと怖いな、と思う人ほど、ものすごく面白いものを書いたりする(笑)。普段なら友だちになれない人とも、読書なら仲良くなれるんです。
堀井 YouTubeや配信サービスは手軽で楽しい一方で、余白を考える時間は少ないかもしれませんね。
北川 友だちが、人気の番組やドラマはジャンクフードみたいだと言っていて、なるほどと思いました。食べたくなるけど、あまり記憶に残らない。本当に知りたいのは情報じゃなくて、「この人はどんな世界を見ているのか」ということなんです。
堀井 違う世界を覗きに行く感覚ですね。
北川 そう。夏目漱石の作品も、今読むと価値観の違いに驚くところはあるけれど、文章の美しさは変わらない。この年月を経て残ってきたものには、やっぱり理由があると思います。
堀井 読書は、今の時代でも必要だと思いますか。
北川 頭に余裕があるなら、動画を見るより、本を読んだほうがいいと思います。音のない時間は、とても落ち着きますしね。1800円くらいで、不思議な部屋に入れると思えば、すごく贅沢です。
堀井 秋田はこれから冬を迎えて、家の中で過ごす時間も増えますね。
北川 絶好の読書タイムだと思います。
堀井 今日はありがとうございました。皆さんもぜひ、自分なりの一冊を探す旅に出て、気になるドアをノックしてみてください